総合

吉田達磨サッカーシンガポール代表監督「W杯予選、選手は恐れず戦っている」

投稿日:

サッカー・シンガポール男子代表チーム(Lions)がW杯アジア2次予選で予想外の活躍をしている。5試合を終えて2勝2敗1分、勝ち点7でグループDの3位につけ、最終予選進出の可能性も残しており、ファンの間ではにわかに期待が高まっている。指揮を執る吉田達磨監督に、これまでの戦いぶりや善戦の背景、残り3試合への心構えを聞いた。

――昨年5月に自身初の代表監督に就任して以来10カ月が経過した。これまでを採点してほしい。

60点、70点くらい。イメージしていたよりも進んだと思っている。

僕が監督になって、初めて代表に呼ばれ、代表デビューを果たした選手もいる。シンガポールサッカーファンの意表を突いた選手もいると思うが、皆よくやっている。選手たちはパフォーマンスを発揮するようになってきた。自分たちがやろうとすること、やるべきことを信じる力がついてきた。初めての日本人監督ということで、それまでとはアプローチが変わったと思うが、それを新鮮に感じているうちに勝てたことが大きい。

トレーニングに関して、選手たちは「きつい」と言っている。メニューはそれほどハードなものではないが、(日本とは)気候も異なるし、彼らの感じ方としては「この監督は練習きつい、だけど楽しい」ということになってきている。ベストを尽くすという意味で、笑いを楽しむのではなくて、トレーニングをクリアすることを楽しむというふうに姿勢が変わった。手を抜かなくなった。

就任後1週間で、ソロモン諸島とミャンマーとの国際親善試合があった。両試合ともシンガポール選手のパフォーマンスは良く、良いイメージのままワールドカップアジア2次予選を迎えることができた。各クラブチームにお願いして、8月に週1回ないし2回の計5回、国内組だけで練習したことも大きかった。

――ワールドカップアジア2次予選では、これまで2勝2敗1分の勝ち点7で、グループDで3位につけている。ポット5で入ったチームとしては唯一、最終予選進出の可能性を残している。組み合わせ抽選の後、厳しいグループに入ったと話していた。相手は格上であり、健闘していると言って良いと思うが、要因をどのように分析しているか?

恐れず戦うということを実行したことが一番大きい。失うものはそもそもないが、大敗することを恐れるのではなく、選手たちは勝とうと思って戦い、実際に勝ったことが大きかった。

8月の練習と、9・10・11月に連続して練習できたので、ここで戦術についての理解と、意思統一がかなり図れたと思うし、刺激しあって向上したと思う。

組み合わせについて言えば、グループリーグを抜けることを考えると、グループ1位は確定で、あとは2位の中の成績上位4チームに入れるかということになる。ポット1は強いに決まっているのでおいておくとして、ポット2にどこが入るかが焦点になるが、中でもウズベキスタンとイラクが明らかに強く、同じグループにウズベキスタンが入った時点で、ポット3~5のチームにはほぼ希望がない。そういう意味でグループDは厳しかった。

ポット3には、もしかすると我々にも勝てるのではないかというチームがいたりする。ポット5のチームは1勝を目標にしたりするので、そうしたチームと一緒になればあわよくばということを考えたりするものだが、パレスチナとイエメンということになり、引き分けすら難しく、勝ち点は取れないのではないかというグループだった。

パレスチナは、世界ランキングはともかく、ポット3、4のチームの中で最も実力があるチームの一つだ。我々は7点、8点取られるということも十分考えられる強いチームであり、実際、ウズベキスタンに一つ勝った。安定しない国という難しさがあるが、両者の実力はそれほど離れていない。パレスチナの選手は中東の選手であり、体つきはヨーロッパやアフリカに近い。テクニックでは劣っていても、フィジカルを完全に発揮すると強い。上回る部分があるチームは、上位にも勝つ可能性がある。

2次予選通過を目指すならばポット2次第だし、勝ち点をとろうとしたらポット3、4が焦点になる。その意味では、シンガポールにはラッキーがなかったが、にもかかわらず現時点で勝ち点7ということの意味は大きい。イエメン、パレスチナから勝ち点を取ることが、これまでのシンガポールにとっては厳しいことだったので、大きな価値がある。

――これまでの試合を振り返ってほしい。

初戦のイエメン戦が、我々のベストパフォーマンスだったと言える。珍プレーで2点取られ2-2で引き分けたが、前半に決着をつけるチャンスはあった。勝っていてもおかしくない内容だったが、引き分けたことで逆に引き締まった。

2戦目のパレスチナ(2-1)は、ここジャランベサールスタジアムでの試合であり、ファンの大声援もあって、ホームのアドバンテージを感じた。我々は、4日前のイエメン戦で多くのチャンスを作っていたし、恐らくパレスチナも分析してそのまま来るだろうと予想していたと思う。それがセオリーだが、我々はシステムや選手を変えたり、いくつか変更した中で、立ち上がりに先制することができた。相手が混乱してバタバタしている間に点が入った。実力的には少し離れていたが裏をかけたということだ。終盤は撃たれまくっていたが…。

サウジアラビア(0-3)とウズベキスタン(1-3)には3点を取られ敗れたが、これは何も気にする必要はない。

ウズベキスタン戦に関しては、印象に残るプレーもあったが勝てない。この差は大きい。不用意なケアレスミスからの失点もあり、なぜそういうことが起きてしまうかといえば、高い強度の中で試合を続けることに慣れていないからだ。60分過ぎからすべてのパフォーマンスレベルがダウンした。楽したくなったが、これは本当に仕方がないことだ。ウズベキスタン相手にゲームをコントロールすることは不可能であり、それだけ実力が違うということだ。

11月のイエメン(2-1)戦で1段落だが、勝って良い終わり方ができた。選手たちは気持ち良くオフに入ったのではないかと思う。

――現在はどのような準備を。

選手はそれぞれ所属するクラブチームに戻り、新シーズンに向けてチーム内で競争している。試合に出ていなければ代表に呼ばれることはない。以前は、代表メンバーはほとんど変わることはなく、選手にも停滞感があったようだが、僕は、良いパフォーマンスをした選手を呼ぶし、良くなかったら外す。しっかりとした線があることが大事だ。シンガポールプレミアリーグの試合には必ず足を運んでいる。自分の目、フィーリングを信じて、フェアに、フレッシュに見ているし、実績がないなどの先入観や情報を基に呼ばないということもない。過去を知らない強さがある。

代表で活躍すれば次のステージに行けると、何人かの選手は間違いなく思っている。Jリーグで十分やれるし、ヨーロッパでも活躍できないことはない。その気になるかどうかだが、意欲はあるものの信じていない。そこが難しいところだ。

シンガポールの選手は、そもそもサッカーの捉え方が日本やヨーロッパの選手とは異なる。サッカーがすべてではないし、食事などの管理もストイックに取り組んでいるわけではない。だが、良い体躯をしている選手もいる。逆の言い方をすれば、備わっているということだ。先天的なものに、後天的なものを載せていくことができれば、変わることができる。シンガポールは今より強くなる可能性を秘めていると本当に思っている。

代表としての活動は、12月から3月まで、ほぼ4カ月空いた。3月下旬の2試合に向けて、3月初旬に久しぶりに練習をする。ここで、スイッチを切り替えなければならない。

――二次予選は、3月に2試合、6月に1試合の残り3試合だ。抱負を聞かせてほしい

新型コロナウイルスの影響は今のところはない。ただ、アウェーでの試合で、入国できるか否かは気にはなる。ギリギリまで分からない。

予選突破は全く考えていない。勝算はパレスチナは15%、ウズベキスタンは2%、サウジアラビアは1%という感じだ。ウズベキスタンやサウジアラビアは、フィジカルに加えてテクニックがあり、普段の競争レベル、リーグのレベルがそもそも高いので、刺激が強く鍛えられている。僕らは一戦一戦、メンバー選考も含めて、全てを出しきらないと話にならない。到達点を間違えると、積み上げるものがなくなる。

監督としては、この3試合は采配、選手の交代枠も含めてものすごく力がつくと思う。何とか、いろいろやってみたい。

<インタビューは2020年2月21日実施しました。>

吉田 達磨氏(よしだ・たつま) 1974年生まれ。埼玉県三郷市出身。選手時代は柏レイソル、アルビレックス新潟、モンテディオ山形、シンガポールのジュロンFCでプレーした。2002年引退後は指導者の道を歩み、柏レイソル、アルビレックス新潟、ヴァンフォーレ甲府監督を歴任。2015年には柏レイソルをAFCアジア・チャンピオンズ・リーグ8強に導いた。2019年5月シンガポール代表監督に日本人として初めて就任した。

-総合

Copyright© シンガポール新聞社 , 2024 All Rights Reserved Powered by STINGER.