ASEAN+3マクロ経済調査事務局(AMRO)は2025年10月9日、「ASEAN+3金融安定報告書(AFSR)2025」と「ASEAN+3地域経済見通し(AREO)10月改訂版」を公表した。両報告書は、米国の通商政策の転換と地政学的緊張を背景に世界市場のボラティリティが高まる中でも、ASEAN+3地域が総じて高い強靭性を維持していることを強調した。
ASEAN+3地域の経済成長率は2025年に4.1%、2026年に3.8%と予測。上半期の堅調な経済実績と予想を上回る輸出の勢いに支えられ、7月時点の予測から上方修正した。「解放の日」における関税の発表を受け、4月にピークに達した市場への圧力は、その後徐々に緩和していると記した。
AMROのチーフエコノミストであるハー・ドン氏は、「ASEAN+3地域内貿易と内需が、地域全体の成長の原動力として重要性を増してはいるが、ASEAN+3地域は依然として世界の金融システムと深く結びついており、世界的な金融ショックと無縁でいられるわけではない」と述べた。さらに、「脆弱性が一部に残存しているものの、地域全体の金融システムは強靭性を維持している」と分析した。
また、▽輸出関連企業、とりわけ米国需要への依存度が高い中小企業は、貿易環境の変化の中で収益が圧迫される可能性がある ▽関税措置は、米国のインフレを加速させて金融政策のかじ取りを難しくするだけでなく、その影響がASEAN+3地域に及ぶおそれがある ▽米ドルに代わる有力な安全資産が見当たらない中、その地位への不確実性が高まれば、世界の金融の一体性がさらに損なわれかねない――といった課題はあるものの、ASEAN+3経済は困難な状況を乗り切るための態勢が十分に整っているとし、強固な銀行システム、深化する金融市場、潤沢な外貨準備高、そして利用可能な政策余地といった強固なファンダメンタルズと、適切に調整された政策ミックスが、重要な緩衝材として機能していると記した。大半の国・地域においてインフレは概ね抑制され、インフレ期待も安定していることから、各国・地域の中央銀行は成長を下支えするために緩和的な金融政策を維持できると記した。
そのうえで、金融システムの安定を確保し、海外からのリスクの伝播を抑制するため、マクロ・プルーデンス政策、為替管理、資本フロー管理といった各種政策手段が引き続き利用可能だが、国外の不確実性が高まる中、政策余地を確保するためには、支援策は脆弱な部門に的を絞り、慎重に実施する必要があるとした。
また、ASEAN+3地域は、短期的なリスクにとどまらず、より深刻な構造変化にも直面していることを指摘した。特に、金融サービスの急速なデジタル化は、金融包摂の促進や効率性の向上という機会をもたらす一方で、金融の安定性に対して新たな課題を提起していると記した。
AMROの金融監視グループヘッドであるルンチャナ・ポンサパン氏は「銀行セクターのデジタル化は市場構造に変革をもたらし、金融包摂の促進と効率性向上のための新たな可能性をもたらしているが、その一方で金融安定リスクの様相に変化をもたらす側面もある。政策当局には、各市場セグメントの成熟度に応じて、リスクを管理しながらイノベーションを促進する多角的な戦略の採用が求められる」と述べた。
ASEAN+3が短期的な不確実性に対処するにあたり、外部からの衝撃による波及リスクを軽減するためには、政策枠組みの強化、透明性の向上、そして国内市場の深化とバッファーの拡充が重要となる。ハー・ドン氏は「協調的な行動とより深い金融協力・統合により、ASEAN+3は今日の課題を明日の機会へと転換させ、より強さを増し、連携を深め、強靭性を高めていくことができるだろう」と述べた。