ASEAN+3マクロ経済調査事務局(AMRO)は2025年4月21日、年度旗艦報告書『ASEAN+3 地域経済見通し(AREO)2025』を発表し、4月2日の米国政権による包括的な関税措置の発表後の前例のないグローバルな貿易ショックに耐える、ASEAN+3(日中韓)地域のレジリエンスと政策能力を強調した。米国政権による関税措置は保護貿易の急速な激化を引き起こし、市場の予想をはるかに超える不確実性の高まりをもたらしているとした。
4月2日の発表では14カ国中13カ国が最も高い実効税率の対象となっており、中国を除く貿易加重平均は26%と推定されている。こうした税率は流動的で今後数カ月でさらに変化する可能性があり、関税と、政策が絶え間なく変わることで生じる不確実性により、貿易の勢いが弱まり、サプライチェーンに混乱が生じ、金融市場の変動が大きくなることが予想されるとした。
AMROは「解放の日(Liberation Day)」の関税発表前、ASEAN+3地域は堅調な国内需要、投資回復、低く安定したインフレに支えられ、2025年から2026年に4.0%以上成長すると予測していた。そして、当初の「解放の日」のシナリオでは、ASEAN+3地域の成長率は2025年に4.0%を下回り、2026年にはさらに3.4%まで弱まる可能性があるとした。ただ、米国政府は市場の反応や貿易相手国による対抗措置に応じて絶えず関税措置を調整しているため、こうした事前予想は大きな不確実性をはらんでいるとした。
AMROのチーフエコノミストであるホー・イー・コー氏は「米国による関税の引き上げと広範な関税措置の発表、またその後の展開は、ASEAN+3地域の見通しに多層的かつ深刻な複雑さを与えるものだが、今のASEAN+3諸国の経済には、以前のグローバル・ショックの時よりもレジリエンスと多様性があり、現在展開中の関税ショックを切り抜けていく態勢がより整っている」と述べた。
貿易ショックはASEAN+3に重くのしかかってくるが、ASEAN+3諸国には短期的な衝撃を緩和する十分な政策余地があり、多くの政府には影響を受けやすいセクターに的を絞った支援を推進し、国内需要を維持できる財政能力があるという。インフレ率が低く、しっかりと固定されていることから、ASEAN+3地域の中央銀行には金融政策を緩和する余地があり、金融の安定を守るためにマクロプルーデンス政策や流動性ファシリティを活用できるという。
また、ASEAN+3地域は多様化した輸出市場によって支えられており、対米国輸出シェアは数年間かけて着実に下がってきており、2000年には総輸出量の約24%を占めていたが、現在は15%になっている。地域統合と貿易の多様化が継続的に進展すれば、ASEAN+3地域が世界的な混乱を乗り切る能力はさらに高まるとした。
AMROの地域サーベイランス担当グループヘッドであるアレン・ング氏は「構造改革を再活性化し、生産性を高めることは、この地域のまだ開発されていない成長潜在力を引き出す上で極めて重要である。デジタル化を加速し、グリーン・トランジションを受け入れ、生産性を向上させることで、ASEAN+3はレジリエンスと質の高い成長を維持することができる」と述べた。主な中長期の優先事項として、既存の製造業の高度化、再生可能エネルギー産業・市場への多角化、投資ギャップの縮小、組織能力の強化、サービス生産性の向上、サービスやデジタル貿易などの分野における統合の深化などを挙げている。
ホー・イー・コー氏は「ASEAN+3はグローバル・ショックに直面しながらも、その驚くべきレジリエンスを何度も証明してきた。この不安定な貿易環境においては、団結と協調が不可欠になるだろう」と結論づけた。
AMROは、ASEAN+3地域のマクロ経済と金融の安定確保に尽力するためにシンガポールに設立された国際機関で、マクロ経済を監視し、地域金融協定を支援し、加盟国に技術支援を提供することを任務としている。