横浜市は2019年5月27日、「2018年度IR(統合型リゾート)等新たな戦略的都市づくり検討調査(その4)報告書」を公表した。2010年に2つの大型IRを開業したシンガポールの事例を交えながら報告している。調査にはGenting Singapore Limited (ゲンティン・シンガポール・リミテッド)など12のIR事業者も協力した。
報告書では、横浜市で開催される国際会議の年間件数(2017年)について「シンガポールの約27分の1の32件で大きく水を開けられている」と状況を示すとともに、「パシフィコ横浜(横浜国際平和会議場)は国内の他の主要なMICE施設より稼働率は高く、需要に対して供給が不足している」と指摘した。
また、各国のIRの事例を解説する中で、シンガポールについても詳述。マリーナベイ・サンズ、リゾート・ワールド・セントーサの効果・実績を紹介した。
一方、懸念が寄せられるギャンブル依存症対策については「(シンガポールに関しては)IR開業前からギャンブル依存症対策を実施した結果、病的ギャンブルや問題性ギャンブルの有病率は減少傾向にある」としている。
また、犯罪率についても「(シンガポールに関しては)カジノ設置前後において、旅行者数は増加したものの、犯罪認知率の上昇は見られない。体感治安の悪化に繋がる ▽人に対する犯罪 ▽暴力/重大な財産に対する犯罪 ▽住居侵入及び関連犯罪 ▽窃盗及び関連犯罪――などの犯罪についても大きな変化は見られない」としている。
事業者からは主に以下の意見が寄せられている。
「シンガポールの事例は日本のIR整備法の基礎になっているが、実際にギャンブル依存症の有病率は低下している。当面IRができても3カ所であるため、ギャンブル依存症の患者が大幅に増えることはないかもしれない。シンガポールでギャンブル依存症の治療に関わる医師によれば、依存症対策のうち、自己排除プログラム等の入場制限が最も有効であると話していた。入場を制限されたシンガポール人は、国民560万人のうち6,000人である」
「シンガポールでは全事業者が横断的に排除のためのシステムを作っていたと記憶している。このように公共性の高いシステムを横断的に作らなければ、自己排除も家族排除も実効性がない」
「外部から横浜を見ると、他都市と比べ相対的に余裕があるように見えるので、IRの必要性を理解してもらいにくい。マリーナベイ・サンズは、シンガポールに全く新しいリゾートのイメージを創り上げた。横浜には、これまで創り上げてきた比較的クリーンなイメージがあるので、せっかくそのようなイメージがありながらカジノを導入するのか、という抵抗感もあるだろう」
「世界の国際観光都市との比較の中で考えなければならない。ドバイやシンガポール(マリーナベイ・サンズ)のように、写真を撮影したくなる建物によって横浜の魅力が高められないと本当の意味でのIRの象徴にはなりえない」
「多くの外貨を落とすインバウンドが、マカオではなく横浜など日本のIRを選ぶかどうかも課題である。旅の楽しさに加えて、シンガポールやマカオに対するIR自体の優位性が必要である」