アジア開発銀行(ADB)は、民間部門業務の拡大を目的としてシンガポールに事務所を開設する。2019年6月28日、20カ国・地域首脳会議(G20大阪サミット)において、ADBの中尾武彦総裁とシンガポールのヘン・スイキャット副首相兼財務相が、新事務所設立の合意書に署名した。
中尾総裁は「世界有数の金融・商業の中心地シンガポールは、現在ADBが取り組んでいる民間部門業務(民間企業への貸付、出資、保証)の拡大を押し進める上で、非常に適した場所である。民間部門の資金をシンガポールのような市場から集めることで、インフラ部門や社会部門における地域全体の開発プロジェクトに対して、最新のテクノロジーとマネジメントスキルを取り入れることができる」と述べた。
ヘン副首相兼財務相は「アジア・太平洋地域の途上国で経済成長を保つためには、2030年まで年間1兆7,000億ドルものインフラへの投資が必要だとされる。この需要に対応するためには、民間資金の活用が不可欠で、そのためにも国際開発金融機関と協力し、インフラ関連プロジェクトを採算の取れる投融資可能なものにしなくてはならない」と述べ、「シンガポールは、金融とサービスの基盤がしっかりしており、民間資金が活用しやすい。ADBが地域のインフラ需要に応える上で、シンガポールの位置づけを評価してくれたことを嬉しく思う。この地域の国々が、持続可能な開発目標を達成すべく、ADBとの関係を一層深めていきたい」と述べた。
ADBはシンガポール事務所を、業務を絞った小規模事務所として今年後半に開設する予定で、民間部門業務局(PSOD)および官民連携部からの職員を含む12人で構成する。事務所開設は、民間部門職員を地域顧客のより近くに配置する動きの一環だという。
昨年、ADBが関与した民間部門業務の案件数は32件で、融資および無償援助(グラント)の総額216億ドルのうち31億ドルを占めた。ADBの長期戦略「ストラテジー2030」は、民間部門のプロジェクト案件数を2024年までにADB業務の3分の1まで増加させると同時に、2030年までに融資1ドル当たり2.5ドルの長期協調融資獲得を挙げている。民間部門業務はまた、フロンティア市場への支援を強化し、再生可能エネルギーや他の中核的なインフラに加え、農業および保健・教育など社会部門業務を拡大することにしており、シンガポール事務所はプロジェクトのスポンサー、コントラクター、アドバイザー、出資者、ADB以外の国際金融機関、専門サービスとの協力を効率化・円滑化し、実現を目指していく。
シンガポールは、1966年にADBが設立されたときの創設メンバー国で、1980年まではADBから借り入れを受けていたが、1998年に正式に借り入れ国から卒業した。2001年以来、シンガポールはADBの譲許的資金であるアジア開発基金に資金拠出している。